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  “Separate Times ”レコーディング顛末記

                          中島絵美

 昨年の10月に日本を発ち、ナッシュビルのIEI(語学学校)に通いながら、ブルーグラスの勉強を始めた私達3人(美雅と由美に私)に“お金がないから、自分達で工面せよ”と両親から非情なメッセージが入った。どうしようか!

 計画していたレコーディングどことではなくなったのだ。アメリカではイリーガルなのだが、背に腹はかかえられない。美雅ネェは韓国レストランでウエイトレスを、由美はタイのレストランでお客を誘導する接待係を、私はベビーシッターをやりながら生活費を稼ぐ。クリスマスの日に知り合ったフューソン家にはタダで住まわせてくれるように頼み込んでとりあえずの危機は脱した。

 このフューソン家では食事の後片付けと子守りさえすれば食費も家賃もタダなのだ。3ヶ月間に及んだアルバイトも止めて、レコーディングのためのオリジナル曲作りに専念することが出来た。

 今回のレコーディングは2回目ということもあって、私達3人で練りに練って企画したつもりだったのだが、初めからつまずいてしまった。早速、アリソン・ブラウンちゃんに“助けてコール”をして、ゲイリー(ブラウンちゃんのボーイフレンド)にミュージシャンのスケジュールを確認してもらう。

 まず、日本に残っている美砂の代わりにギターには、彼女が大好きなデビット・グリアーがすんなり決定。母の代わりのベースには、あのハンサムなロイ・ハスキーJr.と考えていたのだが、ヨーロッパ・ツアーがあるとの事でボツ。熊本のカントリー・ゴールドでジャムった時のジーン・リベア(ナッシュビル・ブルーグラス・バンド)に決定。

 ゲストにはジェリー・ダグラス(d),ローランド・ホワイト(m&v),
マーガレット・ベイリー(v),それにブラウンちゃん(bj),の凄いメンバーとなった。こんなんでイイのかな?


ビル・ヴォーンディック
 私達が舞い上がってしまって、ちゃんとプレイできるだろうか?......なんて考え出したら、大好きなアイスクリームもチョコレートも喉に通らない。スタジオ入りするまで不安だった。しかも、プロデュース&エンジニアはあのビル・ヴォーンディックなのだから。

(6月2日)
 大柄で白髪混じりのロングヘアーを、後ろでまとめているビルは、見るからに怖そうなおじさんだった。1作目の1部を録った前回のリッチ・アドラーのスタジオとはまた違った感じの”ジューク・ボックス”というスタジオだった。

 デイビッドとジーンには事前に、オリジナル曲のデモ・テープを渡していたのだが「今朝、聴いたよ」と言いながらのウォーミングアップ。
 さあ!いよいよ始まるのだ。手には汗がジットリとにじみ出ている。やっぱり緊張している。すると、ヘッドホーン越しにジーンのジョークがやたら聞こえてくる。それに呼応するかのようにデイビッドがギターでおかしな音を出している。それに今度はビルのジョークが加わり、なかなか終わらない。笑いの中でのスタートとなった。

 まず1曲目は、私達でアレンジしたフィドル・チューンの“June Apple”はスムーズに終えた。はい!一丁上がり!てなもんだ。この調子でできますように神様、仏様、お父様、.....???

 次はなーんと私が作った“Night Breeze”だ。スタジオ内のリラックスした雰囲気に私達も調子が出てきて「デイビット!そこはこう弾いて。ジーン!さっきのコード間違っていたよ。」こんな生意気なことを超一流のミュージシャンに言える雰囲気に感謝しつつ、彼等の雰囲気作りに、プロフェッショナルを感じた。

 3曲目は美雅ネェのオリジナル”Time Flies”だ。ノリの良いインスト曲だが、少々手間取った。

 昼食はビルのお気に入りのメキシカン・フードだ。アメリカにはいろんな国の人がいるからいろんなフードが楽しめる。タコスやブリートでお腹いっぱいになる。


デイビッド・グリア


 次は由美が作った”From My Diary”なのだが、デイビッドが少々てこずっている。というのも毎回フレーズを変えているからだ。気に入らなければすぐにやり直す、またプロに魅せられた。でも、そんなかっこいいプレイをするのに突然、変な踊りをしたり、いきなり大声で笑ったり、彼もまた“変なおじさん”の一人だ。

 CDタイトル“Separate Times”(これも美雅姉のオリジナル)も順調に終え、次の“Drunker's Dream”を合わせていると、みんながノリ始めた。ジーンはベースを担いで弾いているし、デビッドは「ロックンロール!」と叫びながらかっこいいフレーズをボロボロ弾いている。ビルまでもが踊り始めてしまった。笑い上戸の私達は笑いが止まらず、涙を流しながらのプレイとなった。

 今日最後の曲、ピーター・ローワンの“Trail Of Tears”を終えた時は、もう夜の10時。あっという間の12時間だった。さすがにみんな疲れ果ててしまい、明日に備えてすぐベッドにもぐった。


プロデュース・・・ビル・ヴォーンディック
エンジニア・・・・ビル・ヴォーンディック
ギター・・・・・・デビッド・グリア
ベース・・・・・・ジーン・リベア
ドブロ・・・・・・ジェリー・ダグラス
マンドリン・・・・ローランド・ホワイト
ボーカル・・・・・マーガレット・ベイリー
バンジョー・・・・アリソン・ブラウン

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